夜勤中、急に「これアトロピンだっけ?」と気になってスマホで調べる──看護師ならそんな場面に何度か遭遇したことがあると思います。
アトロピンは、徐脈、迷走神経反射、散瞳、前投薬、有機リン中毒など、幅広い場面で登場するのに細かい注意点を忘れやすい薬です。
この記事では、以下の信頼できる公的ソースをもとに、看護師が「思い出すための手がかり」として使える内容を整理しました。
※本記事は看護師の学習・理解促進を目的としたもので、投与量の指示や医療判断を行うものではありません。
アトロピンとは?(作用のイメージ)
アトロピン(アトロピン硫酸塩)は、副交感神経(ムスカリン受容体)をブロックする抗コリン薬です。
ブレーキ役の副交感神経を弱めるため、身体に以下の変化が起こります。
- 心拍数が上がる(徐脈で使用される理由)
- 散瞳(眼科で使う理由)
- 唾液・気道分泌の減少(麻酔前投薬)
- 腸の動きが弱くなる
- 尿閉になりやすい
アトロピンが使われる臨床場面
① 徐脈・迷走神経反射
急性期・一般病棟のどちらでも遭遇しやすい場面です。
使用目的
・迷走神経反射で HR が落ちているとき
・徐脈によって血圧が下がりそうなとき
JRCガイドライン(2020)より
・心停止への routine 使用は推奨されていない
・徐脈の初期対応の選択肢として使用される
看護師の観察ポイント
- HR・BP の変化
- 意識レベル
- PVC など不整脈の発生
- 効果が乏しい場合 → 高度房室ブロックの可能性
② 麻酔前投薬(前処置)
内視鏡や手術の前処置として使われることがあります。
使用目的
・気道・唾液分泌を減らす
・嘔吐反射を軽減する
看護師の観察ポイント
- 喉の渇きの訴え
- 心拍数の上昇
- 喀痰の粘度(ムセやすくなることあり)
③ 散瞳目的(眼科)
アトロピン点眼は散瞳作用が非常に強く、持続も長いのが特徴です。
効果の持続時間(目安)
・大人:数日~1週間程度、ぼやけやまぶしさが続くこともある
・子ども:1~2週間程度続くことがあり、特に持続が長くなりやすい
※実際の持続時間は濃度や投与期間、個人差によって変わるため、正確な評価は眼科医の指示に従います。
注意点
- まぶしさ(サングラス推奨)
- 調節麻痺による「近くが見えにくい」
- 特に閉塞隅角緑内障・その疑いがある場合は禁忌とされるため、眼科医の指示が必須
④ 有機リン中毒
有機リン中毒に関する詳細な治療方針は、厚生労働省研究班がまとめた以下の資料などを参照してください。
有機リン剤 詳細版 Ver.1.12_b(厚労科研・日本中毒学会)
症状の例
- 縮瞳
- 気道分泌過多
- 徐脈
- 呼吸困難
効果判定
- 気道分泌の減少
- 心拍数改善
- 縮瞳の改善(遅れることもあり)
副作用と注意が必要な患者
主な副作用
- 口渇
- 便秘
- 排尿困難
- 散瞳・ピントが合いにくい
- 頻脈
- 高齢者のせん妄
注意が必要な患者
- 高齢者(せん妄・転倒リスク)
- 前立腺肥大(尿閉の可能性)
- 緑内障
禁忌(PMDA 添付文書より)
閉塞隅角緑内障
看護師が押さえておきたい観察ポイント
徐脈で使用したとき
- HR 上昇の有無
- 血圧・意識レベル
- 不整脈
- 胸痛の訴え
散瞳後
- まぶしさへの過敏
- 歩行時のふらつき
- 視界不良
麻酔前投薬
- 喉の乾燥
- 気道分泌の変化
- 脈拍・血圧の変動
他の抗コリン薬との違い
- アトロピン:心拍上昇・分泌抑制が強い
- スコポラミン:嘔気軽減・鎮静に使われやすい
よくある質問(Q&A)
Q. 心停止にアトロピンは使う?
A. 2020年JRCガイドラインでは routine 使用は推奨されていません。
Q. 散瞳はどれくらい続く?
A. 大人で12〜24時間、子どもは24時間以上のことがあります。
Q. 効かない徐脈は?
A. 高度房室ブロックなど、そもそも反応が出ない病態があります。
まとめ
アトロピンは徐脈、迷走神経反射、散瞳、麻酔前投薬、有機リン中毒など、看護師の現場で幅広く使われる薬です。
この記事では、作用のイメージや観察ポイントなど、看護師が「思い出したい部分」に特化して解説しました。
さらに詳しい情報や投与量については、必ず公的ソース(PMDA・JRC・厚労省)を確認してください。
