看護師の給料は、本当に上がっていないのでしょうか。
統計を見ると、看護師の平均年収は少しずつ上昇しています。ところが現場では、「昇給した感じがしない」「仕事は増えているのに給与はほとんど変わらない」という声をよく聞きます。
このズレには理由があります。
2025年の賃金改定率を見ると、産業全体が4.4%だったのに対し、「医療・福祉」は2.3%。世の中で4%、5%という賃上げのニュースが飛び交う中、医療現場の伸びはその半分ほどでした。
周囲の給与が大きく伸びれば、前年より少し昇給していても「上がっていない」と感じるのは当然でしょう。
ただ、2026年に入って状況は動き始めました。
診療報酬改定では医療従事者の賃上げを後押しする仕組みが拡充され、訪問看護も新たに処遇改善の対象へ。看護師の給与を巡る環境は、2025年までとは少し違った局面に入っています。
では、これから看護師の給料は上がるのでしょうか。
数字と制度の両方から、2026年の現在地を見ていきます。
看護師の平均年収は524.7万円。それでも「給料が安い」と感じる理由
厚生労働省の2025年「賃金構造基本統計調査」をもとにした職業情報では、看護師の平均年収は524.7万円。平均年齢は42.1歳です。
500万円を超えているなら、それほど低くないようにも見えます。
ただし、この数字だけで看護師の給与事情を判断するのは少し乱暴です。
看護師の年収には賞与、夜勤手当、時間外勤務などが含まれます。月4回、5回と夜勤をこなしている人と、日勤だけで働いている人では当然収入が違います。
病院の規模や地域による差も大きく、大学病院、地域の総合病院、クリニック、訪問看護ステーション、介護施設では給与体系そのものが違います。
たとえば年収が前年より20万円増えていたとしても、その理由が「基本給の大幅アップ」とは限りません。
夜勤が月1回増えた。残業が増えた。賞与の支給月数が少し変わった。
こうした要因でも年収は動きます。
看護師が「給料が上がらない」と感じるとき、問題にしているのは年収の数字そのものより、仕事の負担に対して基本給や昇給額が見合っていないことが多いのです。
他業界は4.4%、医療・福祉は2.3%
いま看護師が給与の伸びを実感しにくい理由を、もう少し数字で見てみましょう。
厚生労働省の「2025年賃金引上げ等の実態に関する調査」では、1人平均の賃金改定率は4.4%でした。
医療・福祉は2.3%です。
| 2025年の賃金改定率 | 改定率 |
|---|---|
| 産業全体 | 4.4% |
| 医療・福祉 | 2.3% |
差は2.1ポイント。改定率で比べれば、ほぼ2倍です。
ここ数年、春闘では「満額回答」「過去最高の賃上げ」といったニュースが珍しくなくなりました。
友人や家族が一般企業に勤めていれば、
「基本給が1万円上がった」
「今年は5%近く昇給した」
という話を耳にする機会もあるでしょう。
その横で自分の昇給が月2,000円、3,000円なら、給与明細を見ても喜びにくいところです。
しかも看護師は、患者の高齢化、医療の高度化、人手不足などによって現場の負担が軽くなっているわけではありません。
仕事は濃くなっているのに、給与の伸びは他業界より小さい。
このギャップこそ、「看護師の給料は上がらない」という感覚の正体に近いでしょう。
なぜ病院はもっと給料を上げられないのか
ここで疑問が出てきます。
看護師不足がこれだけ続いているなら、病院が給与を上げれば人が集まるのではないか。
一般企業なら、採用難になれば賃金を上げるのは珍しくありません。
ところが医療機関では、同じ方法をそのまま使えません。
大きな理由が診療報酬です。
保険診療の価格は国が定めています。飲食店なら原材料費が上がったときにメニュー価格を改定できますが、病院が「人件費が上がったので、今日から診察料を10%値上げします」と決めることはできません。
一方で病院側の支出は増えています。
電気代、医療材料費、設備費、人件費。
コストが上がっても、その分をすぐ患者への価格へ転嫁できない。医療機関の経営が一般企業と大きく違うところです。
看護師を確保したい。
給与も上げたい。
しかし、その原資をどこから確保するのか。
長く続いてきたこの問題に対して、国が診療報酬を通じて賃上げ資金を確保するために設けた仕組みのひとつが「ベースアップ評価料」です。
2026年、看護師の賃上げ制度がもう一段動いた
ベースアップ評価料は2024年度の診療報酬改定で導入されました。
そして2026年度の改定では、その仕組みがさらに拡充されています。
国が掲げている目標は、
2026年度に3.2%
2027年度にさらに3.2%
という医療従事者の賃上げです。
看護師も対象に含まれます。
ここだけを見ると、
「では、今年は給料が3.2%増えるのか」
と思うかもしれません。
残念ながら、給与明細に一律3.2%が加算される制度ではありません。
国が医療機関へ「看護師の給料を3.2%上げなさい」と直接命じる仕組みではなく、診療報酬を通じて賃上げに使える財源を確保しやすくする制度です。
給与へどう反映するかは勤務先によって変わります。
基本給を上げる病院もあれば、別途「ベースアップ手当」などを設けるケースもあります。もともとの賃上げ状況や病院の経営状態によっても結果は変わってきます。
つまり、2026年は「全国の看護師の給料が一斉に3.2%上がる年」ではありません。
「看護師の賃上げに回すための資金が以前より手厚くなった年」と考える方が実態に近いでしょう。
夜勤をする看護師にも関係する2026年度改定
今回の改定で見逃したくないのが、夜勤手当です。
2026年度の仕組みでは、ベースアップ評価料による収入を夜勤手当の増額にも充てられるようになりました。
夜勤は看護師の収入を大きく左右します。
同じ基本給でも、夜勤が月4回ある人と日勤のみの人では月収にかなり差が出ます。それだけに、夜勤手当の扱いは給与全体を考えるうえで重要です。
勤務先が今回の制度変更をどう使うのか。
基本給へ回すのか、手当に反映するのか。
夜勤をしている看護師なら、給与明細だけでなく職場から出る賃金改定の案内にも目を通しておきたいところです。
「6月になったのに給料が上がっていない」はおかしい?
2026年度の診療報酬改定は6月から本格的に動いています。
とはいえ、6月1日を境に全国の病院が一斉に給与を変更するわけではありません。
勤務先によって対応方法は異なります。
給与規定を改定して基本給を変更する職場もあれば、手当として支給する職場もあります。年度途中に制度を整え、後から差額を支給するケースも考えられます。
そこで一度、給与明細を以前のものと見比べてみてください。
見るのは支給総額だけでは不十分です。
基本給はいくら変わったのか。
新しい手当が追加されていないか。
夜勤手当の単価は変わったか。
「ベースアップ手当」「処遇改善手当」「賃金改善手当」などの名称で支給されることもあります。
よく分からなければ、人事や給与担当へ確認して構いません。
「2026年度のベースアップ評価料は、職員の給与にどう反映されていますか」
聞く内容はこれだけです。
制度について詳しく知っている必要はありません。
訪問看護も2026年6月から処遇改善の対象へ
2026年に大きく状況が変わったのが訪問看護です。
2025年までの記事を検索すると、
「訪問看護は介護職員等処遇改善加算の対象外」
という説明が見つかります。
当時はそれで正しかったのですが、現在は制度が変わっています。
2026年度の介護報酬改定によって、6月から処遇改善加算の対象が拡大されました。
対象には訪問看護のほか、訪問リハビリテーション、居宅介護支援、介護予防支援なども加わっています。
訪問看護で働く看護師にとっては、かなり大きな変更です。
実は2025年、日本看護協会は訪問看護を処遇改善加算の対象とするよう国へ要望していました。
それから半年ほどで制度改定。
2025年には「待遇改善を求めている段階」だった話が、2026年には「制度として動き始めた」わけです。
もちろん、すべての訪問看護ステーションで同じ金額の昇給が行われるわけではありません。加算を取得するためには事業所側が一定の要件を満たす必要があります。
それでも、制度上の扱いが変わった意味は小さくありません。
訪問看護の給与を考えるとき、2026年6月はひとつの転換点になりそうです。
病院と訪問看護、給料だけならどちらが高い?
転職を考えている看護師なら気になるところでしょう。
結論から言えば、「病院」「訪問看護」という勤務先の種類だけで高低を決めるのは難しいです。
病院勤務は夜勤によって収入を上げやすい職場が多く、月4回程度の夜勤でも年間ではかなり大きな金額になります。
訪問看護は日勤中心ですが、事業所によってはオンコール手当、緊急訪問手当、訪問件数に応じたインセンティブが設定されています。
年収500万円を超える訪問看護求人もあれば、同じ地域の病院より低い求人もあります。
大切なのは「月給○万円」の部分だけを見ないことです。
求人票の月給には夜勤手当があらかじめ含まれている場合があります。固定残業代込みなら、表面上の金額はさらに高く見えます。
比較するなら、現在と同じ勤務条件にそろえて年間収入を計算します。
基本給
賞与
夜勤手当
オンコール手当
残業代
年間休日
ここまで並べると、求人票の第一印象とは違う結果になることも珍しくありません。
「年収が高い職場」より「基本給が上がる職場」を見る
転職先を探すときに、もうひとつ意識したいのが基本給です。
たとえば、
A病院 月給35万円
B病院 月給32万円
なら、A病院の方が条件が良さそうに見えます。
しかしA病院の35万円には夜勤手当4回分と固定残業代が含まれ、B病院の32万円は基本給が高い。
こんなケースもあります。
賞与が「基本給×○カ月」で計算される職場では、基本給の差がそのまま賞与へ響きます。退職金の算定基礎にも基本給を使う職場があります。
今月いくらもらえるか。
もちろん大切です。
ただ、5年後、10年後まで働くつもりなら、「基本給が毎年どのくらい上がる勤務先なのか」という視点を持っておいた方がいいでしょう。
月給の高さより昇給テーブル。
看護師の転職では意外と見落とされやすいポイントです。
今の職場で給料が上がらないなら、まずここを見る
2026年は看護師の賃上げを後押しする制度が強くなっています。
それでも自分の給与がほとんど変わらない。
そんなとき、いきなり「転職しよう」と決める必要はありません。
最初に調べたいのは、自分が今いる職場の給与制度です。
過去3年ほどの給与明細を並べてみると、かなり見えてきます。
基本給はいくら上がったか。
賞与は増えたか。
手当はどう変わったか。
夜勤1回あたりの金額はいくらか。
さらに就業規則や給与規定を確認できるなら、昇給の仕組みも見ておきます。
毎年一定額ずつ上がるのか。
評価によって変わるのか。
一定年齢で昇給が止まるのか。
ここが分かれば、「この職場であと5年働いた場合の給与」がある程度見えてきます。
問題は、現在の給料が安いことよりも、今後も上がる見込みがほとんどないことです。
転職で年収が上がる看護師、下がる看護師
看護師は勤務先による給与差が大きい職種です。
同じ経験年数でも、勤務する病院を変えただけで年収が数十万円変わることがあります。
だからこそ、給料を上げたい人にとって転職は有効な選択肢になります。
ただし、「転職すれば年収アップ」と単純に考えるのは危険です。
現在の職場で夜勤を月5回している人が、日勤のみのクリニックへ転職すれば、基本給が高くても年収は下がるかもしれません。
反対に、基本給が高い病院へ移り、同じ夜勤回数を続ければ年収が大きく上がることもあります。
比較するときは条件をそろえます。
今の職場で夜勤が月4回なら、転職先も月4回で計算する。
年間休日が120日なら、転職先も休日数を確認する。
通勤時間や残業まで含めて比べる。
「月給」だけでは見えなかった差が、かなりはっきりしてきます。
初めて転職を考える場合は、求人を見る前に条件を整理しておくと比較しやすくなります。

では、看護師の給料はこれから上がるのか
ここまで見てきた制度を踏まえると、国の政策は明確に賃上げ方向へ進んでいます。
2026年度は3.2%、2027年度もさらに3.2%の賃上げを目指す方針。
ベースアップ評価料も拡充されました。
訪問看護など、これまで介護分野の処遇改善から外れていたサービスにも対象が広がっています。
少なくとも2025年までと比べれば、看護師の給料を上げるための仕組みは増えました。
ただ、ここから先は勤務先によって差が出ます。
同じ制度を使っていても、基本給を大きく引き上げる職場もあれば、手当中心で対応する職場もあるでしょう。
これから看護師が注目したいのは、
「国が賃上げ制度を作ったか」
というニュースより、
「自分の勤務先がその制度をどう使ったか」
です。
求人を見るときも同じです。
給与額だけでなく、毎年昇給しているか、制度改定を職員の待遇に反映しているか。
この違いが、数年後の年収差につながっていきます。
よくある質問
看護師の給料は2026年に3.2%上がりますか?
3.2%は国が医療従事者について掲げている賃上げ目標です。全国の看護師の基本給に一律3.2%を上乗せする制度ではありません。
実際の増額幅や支給方法は勤務先によって変わります。
看護師の賃上げはいつから始まりますか?
2026年度診療報酬改定による新しい仕組みは2026年6月から動いています。
給与への反映時期は職場ごとに異なるため、給与明細や勤務先からの案内を確認してください。
訪問看護も処遇改善加算の対象ですか?
2026年6月から、介護保険の訪問看護も介護職員等処遇改善加算の対象に加わりました。
加算を算定するには事業所側が要件を満たす必要があります。
看護師の平均年収はいくらですか?
厚生労働省の2025年賃金構造基本統計調査をもとにした職業情報では、看護師の平均年収は524.7万円、平均年齢は42.1歳です。
勤務先、地域、夜勤回数などによって実際の年収には大きな幅があります。
給料が上がらないなら転職した方がいいですか?
まずは現在の職場で、基本給、昇給額、賞与、手当が過去数年間どう変化しているか確認してみてください。
今後も給与がほとんど伸びそうにない場合は、ほかの職場と比較する意味があります。
転職先を見るときは月給ではなく、同じ夜勤回数・勤務時間で計算した年間収入で比較すると判断しやすくなります。

まとめ|「看護師の給料が上がるか」より勤務先を見る時代へ
看護師の平均年収は上昇しています。
それでも給料が上がったと感じにくい背景には、ほかの業界との賃上げ幅の差があります。
2025年の賃金改定率は産業全体で4.4%。医療・福祉は2.3%でした。
一方、2026年度は医療従事者の賃上げを支える制度が拡充されています。
ベースアップ評価料が増額され、夜勤手当への活用も可能になりました。訪問看護も6月から処遇改善加算の対象へ加わっています。
看護師の給与を巡る環境は、確実に変わり始めています。
だからこそ今後は、「看護師の給料は上がるのか」という大きな話だけで判断しないことが大切です。
自分の基本給は上がったのか。
勤務先は制度改定を給与へ反映しているのか。
3年後、5年後の昇給を期待できる職場なのか。
同じ看護師でも、勤務先によって答えは変わります。
制度が変わった2026年は、自分の給与を一度じっくり見直すにはちょうどいいタイミングかもしれません。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」
- 厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査」
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定」
- 厚生労働省「介護職員等処遇改善加算」
- 日本看護協会「看護職員の処遇改善に向けて」
- 日本看護協会「令和8年度介護報酬改定」

